近年、欧米を中心に増えているベジタリアンやヴィーガン。健康や美容のため、環境への配慮や動物愛護のため、また宗教や倫理上の理由など、きっかけはさまざま。ここ日本でも増加傾向にあるようです。
ベジタリアンとは、基本的に動物性食品を取り入れないライフスタイルを送る人の総称ですが、ベジタリアンの中には驚くほどたくさんのタイプがあります。「肉や魚は食べないが乳製品は食べる」という人や、それにプラスして「卵はOK」という人も。その中でも「卵や乳製品なども含めて動物性食品は一切食べない完全菜食主義」の人はヴィーガン(ピュアベジタリアン)と呼ばれています。
どういった基準で食べるものを選ぶのか、個人の思想が色濃く反映されるライフスタイルだといえますね。
ベジタリアンはなぜ、たんぱく質不足が心配されるの?
そんなベジタリアンのライフスタイルについてよく耳にするのが、「菜食だけでは、栄養不足になるのでは?」という懸念です。特に、動物性食品を摂らない食生活で不安になるのは、“たんぱく質不足”ではないでしょうか?
たんぱく質に限っては、お肉、お魚、卵などの動物性食品から摂るたんぱく源が優れていることは否めません。それを裏づけるのが、アミノ酸スコアです。
そもそもたんぱく質は20種類のアミノ酸の集合体。その20種の中の9種は、体内で生成できない必須アミノ酸です。この必須アミノ酸の含有バランスを数値で示した指標をアミノ酸スコアといいます。
アミノ酸スコアは100点満点の設定で、数値が100に近ければ近いほどアミノ酸バランスが良く、たんぱく質のクオリティが高いとされています。そのスコアが100のものは、肉類や魚類、牛乳、卵など、ほとんどが動物性の食品。動物性たんぱく質には9種の必須アミノ酸が基本的に含まれているわけですね。ですが、植物性たんぱく質には必須アミノ酸9種全てが揃っているものが少ない……。それが「菜食のみの食生活だとクオリティの高いたんぱく質が摂れないのでは?」という懸念につながるようです。
※アミノ酸スコアの評定パターンは時折更新されるため、一定ではありません。
※日本食品成分表2018年版(七訂)アミノ酸成分表編より。
そもそもたんぱく質が不足するとどうなるの?
「それなら、たんぱく質以外の栄養をしっかり摂ればいいよね」という考えはNG。筋力づくりに必要な栄養素というイメージが強いたんぱく質ですが、実は“命の維持に欠かせない栄養素”といっても過言ではありません。
たんぱく質が不足すると、筋力が低下しやすくなるのはもちろん、集中力や免疫機能の低下、肌や髪のトラブル増加、骨密度の低下、疲労感や倦怠感の増加……このように心身の多方面に影響してきます。私たちが生きていく上でいかに重要な栄養素なのかを実感しますね。
それでは、100%菜食主義の人はやはり不健康なのでしょうか?
いいえ、たとえ動物性の食品を食べなくても、“アミノ酸スコアが高い植物性たんぱく質”をしっかり取り入れていれば大丈夫。
菜食歴の長い方にとっては、栄養バランスの調整は日常のひとコマかもしれません。一方、これから始めたいという方にとっては「たんぱく質を何から、どれだけ摂るか」を調整するのはなかなかハードル高く感じるのでは?
そこで、良質なたんぱく質が摂れる植物性食品15選をご紹介しますね。
ヴィーガンビギナーさん必見。
たんぱく質を補う植物性食品おすすめ15選!
1.えんどう豆
100gあたりのたんぱく質量:21.7g(乾)
健康食品としても注目されつつあるえんどう豆。乾燥豆状態で100gあたり21.7gもたんぱく質を含んでおり、さらにビタミンB1やB2、カルシウムも豊富です。スープにしたり、豆ごはんとして炊いたりするアレンジが人気!また、植物性プロテインのひとつ、ピープロテインの原料としても知られています。
2.ひよこ豆
100gあたりのたんぱく質量:20.0g(乾)
たんぱく質は乾燥豆状態で100gあたり約20g、脂肪が少ないのが特徴のひよこ豆。エスニック料理のイメージが強いのですが、スープに入れたり、ローストしたり、サラダに入れたりとアレンジがしやすく、缶詰などで手軽に入手できるのもポイント。ほくほくとした味わいが楽しめます。
3.大豆麺
100gあたりのたんぱく質量:約15g(九州まーめんの場合)
植物性たんぱく質の中で、アミノ酸スコア100を誇る大豆。その大豆から作られた大豆麺なら、さまざまな麺料理を楽しめる上に、たんぱく質や大豆の機能性栄養素をしっかり摂取できるため、頼りになる食品です。大豆100%で作られる「九州まーめん」なら、1食あたり約15gのたんぱく質を摂ることができます。
4.大豆ミート(ソイミート)
100gあたりのたんぱく質量:約46.3g(粒状大豆たんぱく)
お肉のような食感と風味ながら原料は大豆ということで、ヘルシーフード業界で定番の大豆ミート。高たんぱく質なのに低カロリーとあって、ベジタリアンの方々だけではなく、ダイエット中の方にも人気です。また、ブロックやミンチなど形状もさまざまなので料理に取り入れやすいのもポイント。
5.納豆
100gあたりのたんぱく質量:約16.5g(糸引納豆)
日本人のソウルフードともいうべき納豆も、100gあたり約17gと高たんぱく質!原材料は発酵させた大豆なので、まさにベジタリアン向けといえます。ひとつ気をつけたいのが、付属のタレ。メーカーによってはタレに動物性食品が使われているケースがあるので、気になる方はお問い合わせください。
6.かぼちゃの種
100gあたりのたんぱく質量:約26.5g(煎り・味付け)
日本ではあまり一般的に食べられていないかぼちゃの種ですが、欧米ではポピュラーな食材。100gあたり約27gのたんぱく質をはじめ、ビタミンB1・B2、マグネシウムや亜鉛、脂質など多くの栄養素を含んでいます。ローストしておやつ代わりにしたり、シリアルやサラダに散らしたり、パスタやスープの具材にしたりと楽しみ方もいろいろ!
7.ひまわりの種
100gあたりのたんぱく質量:約20.1g(フライ・味付け)
ひまわりの種と聞くと、ペットのエサや食用油の印象が強い人も多いのでは?実は栄養価がとても高く、100gあたり約20gのたんぱく質を含み、他にもリノール酸やビタミンE、ビオチンなども豊富な食材です。海外ではおやつやトッピングとしてよく食べられています。
8.チアシード
100gあたりのたんぱく質量:約19.4g(乾)
アミノ酸スコアが高く、スーパーフードとして人気の高いチアシード。たんぱく質はもちろん、食物繊維や鉄分なども豊富。鉄分はなんとほうれん草の約3倍も含まれており、女性に特におすすめの食材です。
9.アーモンド
100gあたりのたんぱく質量:約19.6g(乾)
ナッツの代表格であるアーモンドは、100gあたり約20gと高たんぱく質。さらに、日頃の食事で不足しがちなビタミンE、ミネラル、食物繊維もたっぷり含まれているので、手軽な栄養補給として便利な食材です。最近ではアーモンドミルクの人気も高まっており、コンビニやスーパーでも手軽に入手できるのがうれしいですね。
10.カシューナッツ
100gあたりのたんぱく質量:約25.4g(大粒種・乾)
おやつやおつまみとして人気のカシューナッツも、高たんぱく質食材のひとつ。100gあたり約19gもたんぱく質を含み、ビタミンEやB2、カルシウムやミネラルも豊富です。そのまま食べても美味しいですが、炒めものなど料理のアクセントとしてもおすすめ。
11.落花生(ピーナッツ)
100gあたりのたんぱく質量:21.7g(乾)
落花生は別名ピーナッツ。“ナッツ”とあるので混同されがちですが、木の実ではなくマメ科の植物です。高たんぱく質ながらGI値も低いので、ダイエッターの強い味方にも。また、不飽和脂肪酸、ビタミンE、アルギニン、プロリンといった美容成分も豊富です。1日約20粒を目安に食べるといいですよ。
12.オートミール
100gあたりのたんぱく質量:約13.7g
グラノーラの原料として人気を集めているオートミールは、欧米では朝食としてよく食べられている穀物です。100gあたり約13.7gとたんぱく質が豊富で、豆類に欠けがちなメチオニンという必須アミノ酸が補えるメリットも。また、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の2種類を含むため、おなか環境をケアするために食べるという方も。
13.キヌア
100gあたりのたんぱく質量:約13.4g
「母なる穀物」という別名があるほどのキヌア。たんぱく質をはじめ、ミネラル、脂質、食物繊維が豊富で、必須アミノ酸全てが含まれている稀有な植物性食品です。プチプチ食感でクセのない味わいなので、サラダやスープなどさまざまな料理に加えやすいのもメリット。
14.大麦(押し麦)
100gあたりのたんぱく質量:約6.2g
水分を吸いにくく調理がしづらい大麦を、ローラーなどで押しつぶして加工したものがよく使われており、一般的に押し麦と呼ばれています。麦ごはん、リゾット、スープなどに使いやすく、雑穀好きにはおなじみですね。100gあたり約6.2gのたんぱく質を含み、食物繊維が豊富です。
15.そば粉
100gあたりのたんぱく質量:約13.7g
そば粉は穀類に不足しがちな必須アミノ酸のリジンが豊富に含まれているので、ぜひ摂りたい食品のひとつ。アミノ酸スコアが高いのも◎。そばの麺を選ぶときは、つなぎの小麦粉が少ないものを選びましょう。たんぱく質の摂取量に違いが出ますよ。また、そば粉はガレットやクッキーなど洋風の楽しみ方も!
「ばっかり食べ」をしない。
複数の植物性たんぱく質を組み合わせるのがコツ。
たんぱく質を豊富に含む植物性食品は意外とたくさんあることがお伝えできたかと思います。ただし、ひとつだけ注意していただきたいのが、その摂り方です。
動物性よりもアミノ酸スコアが低くなりがちな植物性たんぱく質は、どうしても「必須アミノ酸の含有バランス」が偏りがち。そのため、どれか一つの食材に頼りすぎて「◯◯◯ばっかり食べる」食生活を続けると、栄養バランスが崩れるという弱点があります。そのため、さまざまな食材を組み合わせ、足りない必須アミノ酸を補完してあげることが大切です。そうすることで、たんぱく質不足や栄養バランスの崩れを心配することなく、ベジタリアンライフを続けていけるはず。
今回ご紹介した15個の食材は、ベテランのベジタリアンやヴィーガンの方にとっては定番の顔ぶれだったかもしれません。これからベジタリアンやヴィーガンについて学ぼうとしている方やパートタイムベジタリアン(可能なときだけ菜食を取り入れること)に挑戦したいとお考えの方も、ぜひ参考にされてみてくださいね。
もともと、精進料理という植物性食材だけを使った食文化を持つ日本。実は私たちにとって、菜食は身近に感じるライフスタイルなのかも?しれません。
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参考:
ベジタリアンとは?(NPO法人 日本ベジタリアン協会HP)
日本食品標準成分表2015年版(七訂)アミノ酸成分表編(文部科学省HP)
日本食品標準成分表2020年版(八訂)
食品たんぱく質の栄養価としての「アミノ酸スコア」NO.46(2005)(日本分析センターHP)
シェリー・F・コーブ著(2017)『菜食への疑問に答える13章:生き方が変わる、生き方を変える』新評論.
垣本充、大谷ゆみこ著(2020)『完全菜食があなたと地球を救う ヴィーガン』ロングセラーズ.
工藤孝文著(2020)『ナッツをうまく食べれば100歳まで長生きできる!驚くべき健康・美容パワーのスーパーフード!』河出書房新社.